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遺言書(相続争いを防止しよう)

1.遺言について

(1)遺言とは

  遺言とは、遺言者の死亡後にその意思を実現するための制度です。遺言をするためには、口頭で誰かに意思を伝えるだけでは足りず、書面を作成する必要があり、その書面を遺言書といいます。

 

(2)法律上、遺言することができるとされている事項(法定遺言事項)

法律上、遺言することができる事項は決められており、主なものは次のとおりです。

   ①認知

   ②推定相続人の廃除・廃除の取消し

   ③祭祀財産の承継者の指定

   ④相続分の指定・指定の委託

   ⑤特別受益の持戻免除

   ⑥遺産分割方法の指定・指定の委託と遺産分割の禁止

   ⑦遺贈

   ⑧遺言執行者の指定・指定の委託

 

(3)法定遺言事項以外の記載事項

法律上遺言でできる事項は上記のとおり限定されていますが、それ以外のことを書いてはいけないということではありません。

遺言しようと思った動機や相続人に対する感謝の気持ちなどが記載されることも多く、相続人の心情との関係では、重要な役割を果たしています。

2.遺言をしておいた方がよい場面

(1)遺言をしておいた方がよい場面

  法律上・事実上遺言できる事項は既に述べたとおりですが、相続対策という観点からみた場合、特に遺言をしておいた方がよいと思われるのは次の場合です。

 

  ①相続人が大人数となる場合

    例えば、親世代の相続関係が未分割のまま放置されている場合や、子供がおらず兄弟姉妹に代襲相続が生じているような場合などには、相続人が大人数となりがちです。また、各相続人は全国各地に散らばっていることが多いため、全国に散らばった相続人間では、話し合いの機会を設けること自体も一苦労です。

  

このような場合、被相続人が何を誰に相続させるかについて遺言書を書いておけば、相続人間で話し合いをする必要もなく、各相続人の負担を大幅に軽減させることができます。

 

  ②相続人の中に判断能力がない者や行方不明者がいる場合

   例えば、姉・兄(認知症)・弟(行方不明)が相続人となる場合、事実上姉しか相続財産を管理することが出来ませんが、それでも、兄と弟を除外して遺産分割を行うことはできません。

   この場合、兄については成年後見人等を選任する必要があり、また弟については不在者財産管理人を選任する必要があります。これらの手続きを全て相続人の姉が行わなければならず、その負担は大変なものがあります。

このような場合、被相続人が姉に遺産を相続させる旨の遺言書を書いておけば、少なくとも相続の段階では、成年後見人の選任や不在者財産管理人の選任は不要であり、相続人の負担を大幅に軽減させることができます。

 

③相続人間の感情的対立が予想される場合

    相続人となる兄弟同士の仲がよくないなど、既に相続人間の不仲が顕在化している場合には、遺産分割を巡って争いが生じるであろうことは容易に想像がつきます。そうでない場合でも、配偶者と被相続人の兄弟が共同相続人となるような場合など、普段あまり接点のなかった者同士が相続人となる場合には、遺産分割協議の過程で話合いがこじれることが少なくありません。

  

このような場合、被相続人が何を誰に相続させるか、どのような考えでそのような遺産分割の仕方を決めたのかについて遺言書を書いておけば、熾烈な相続紛争の大半を回避することができます。

 

④被相続人との関与の程度に応じて相続人の相続割合を調整したい場合

    例えば、相続人の1人には既に自宅購入資金を援助しているので、相続させる割合を減らしたい、相続人の1人にはずっと介護をしてもらっているので、相続させる割合を増やしたい、などの被相続人の希望があったとします

    この場合、何もしなければ相続割合は平等となるので、被相続人の希望が叶うことはありません。むしろ、これらの事情について相続人間で寄与分や特別受益の主張がなされ、相続紛争が生じてしまう可能性もあり得ます。

  

このような場合、被相続人が何を誰に相続させるか、どのような考えで各相続人の相続割合を増減させたのかについて遺言書を書いておけば、被相続人の意思を実現できると共に、熾烈な相続紛争の大半を回避することができます。

 

⑤相続人以外の者に財産を渡したい場合

    例えば、実の息子とは音信不通であり、自宅で内縁の妻にずっと面倒を見てもらっていたので、内縁の妻に遺産を渡したい、という被相続人の希望があったとします。

    この場合、何もしなければ相続人は息子となるので、内縁の妻に相続権はありません。具体的事情にもよりますが、最悪の場合、内縁の妻は、自宅を相続した息子から追い出されてしまう可能性もあります。

  

このような場合、被相続人が内縁の妻に遺産を相続させる旨の遺言書を書いておけば、内縁の妻を守り、被相続人の意思を実現することができます。

3.遺言の方法と種類

(1)遺言の種類

   一般的に用いられる遺言の方法は、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3種類があり、いわゆる遺言書を作成する形での遺言です。

  自筆証書遺言は、文字どおり、自筆で遺言書を作成する方式の遺言です。

  

公正証書遺言は公証人に遺言書を作成してもらう方式の遺言です(公証人とは、事実の証明などを職務とする公務員のことであり、その公証人がいる場所を公証役場といいます。公証役場は全国各地に存在し、東京だけでも40か所以上存在します。)。

  

秘密証書遺言は、自分が作成した遺言書に封をして、これを公証人提出する方式の遺言です。

 

(2)利用状況

  自筆証書遺言と公正証書遺言は一般に広く利用されています。

   他方、秘密証書遺言は、遺言したこと自体は明らかにしておきたいが、その遺言の内容は公証人にも立会者にもしられたくない、という場合の利用を想定した方式ですが、あまり利用件数は多くありません。

4.公正証書遺言と自筆証書遺言 それぞれの長所・短所

自筆証書遺言の長所・短所

 

(1)長所

   自筆証書遺言の長所は、いつでもどこでも、費用をかけずに自分で作成できるという手軽さはあります。

用意するのは筆記用具と紙と印鑑だけですので、遺言を作成するということ自体大げさに感じられる方にとっては、この点は大きな魅力となります。

    また、もちろん内容次第ではありますが、故人の自筆の文面には何にも代え難い重みがあり、心情に訴える説得力も大きなものがあると感じられます。

 

(2)短所

    他方で、手軽さの反面として、自分だけで遺言書を作成した場合、自筆証書遺言の要件を満たしていなかったり、記載内容が不明確などの理由で、遺言が無効となってしまう可能性が高くなります。

     特に、遺言作成当時の遺言能力の有無については誰も確認していませんので、遺言によって不利益を受ける相続人が、遺言能力がなかったと主張して紛争になる可能性が生じます。このように、自筆証書遺言があったがゆえにかえって紛争が生じてしまうという事例は非常に多く見受けられるところです。

  

また、自筆証書遺言の場合には、家庭裁判所での検認手続きが必要になりますので、相続人の側にとっては手軽な手続きではありません。

    加えて、自筆証書遺言は遺言書が自分で保管しておくものなので、紛失の危険もあります。

    最後に、自筆証書遺言は全文自書が要件なので、病気その他の理由で文字を書けない人の場合には、自筆証書遺言を作成することができません。

 

公正証書遺言の長所・短所

 

(1)長所

   公正証書遺言の長所は、後日無効となりにくく、遺言内容の実現が期待できるという確実性にあります。

   家庭裁判所での検認手続が不要なので相続人にも便利である点、公証役場に1通保管されるので、紛失の危険がないという点も長所に挙げられます。

 

(2)短所

   他方で、作成までに公証人との打ち合わせが必要であり、費用もかかるという意味で、手続きの手軽さには欠ける一面があります。

5.自筆証書遺言と公正証書遺言の使い分け

以上のとおり、確実性という意味では公正証書遺言の方が圧倒的に優れており、相続人間の対立が予想される場合であれば、是非とも、公正証書遺言の方式で遺言書を作成すべきです。

ひとたび遺言の有効性を巡る紛争が発生してしまった場合には、これを解決するためには膨大な時間・費用を要します。それとの比較で考えれば、公正証書を作成するための手間は微々たるものにすぎません。

他方、特に相続人間の対立が予想されるということではなく、気持ちを伝えたいという側面の方が大きい場合には、自筆証書遺言であっても問題はないと思われます。

また、別の観点として、遺言書を全文自書することができない人の場合には、自筆証書遺言を作成することができませんので、必然的に公正証書遺言を選択することになります。